りおー?/ふぁ〜B


特に特別でもなんでもない休日、夕方。
居酒屋に何とも奇妙な組み合わせの3人組が同じテーブルに座っている。
二人は綺麗、可愛いと、系統こそ違えど美人な女性。
そんな二人と一緒に座っているのは完全に如何にもなヤーさん。

満席と言う訳ではないが、そこそこ客の入っているこの店だが、店員が気を遣っているのか壁際のその一角だけは客を通さずに空けている。

「別にこういう所は嫌いやないけど・・・お前ならもっとええとこ奢ったったのに。勿論それはそこの嬢ちゃんがおっても一緒や。」

馬宮がたばこをふかしている美紗子と呼ばれる女性に話しかける。

「あー・・・そうね。遠慮してるってのもあるんだけどねー加奈がさ。」
「奢りと聞いてはこの店の軟骨唐揚げを心行くまで堪能するしか考えつきませんっ!」

と、政治家顔負けの演説的力説。

「ははは!そうかそうか!」

馬宮はその力説と力んだ顔が心底可笑しかったらしく笑う。

「んで、今日は珍しくこんな面子集めて何かあったんか?」

馬宮の質問に美紗子は少し言葉を詰まらせながら、

「あたしさぁ・・・彼氏できたんだ・・・てへ。」


ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!


「おっかしいなー雷?今日は晴れのはずなのになぁ。」

美紗子は顔をしかめて窓のある方へと視線を向ける。
顔を正面に戻すと目に入ったのは暇つぶしに見る下らないギャグ漫画のようなリアクションをしている如何にもなヤクザ、馬宮。
ふと横に座っている加奈にも視線を向けるとこれまた似たようなリアクションの加奈。
美紗子は、んーてへ。はちょっとやり過ぎたかなぁ・・・キャラじゃなさすぎるし。と考えると恥ずかしくなり、

「ごめんごめん、加奈はともかく私がてへ。なんてキモすぎだよね。」

あははー。と珍しく顔を真っ赤にして手をパタパタさせて照れ隠しをする美紗子。
すると、漫画リアクションの片方、加奈が目を大きく見開いて、

「そりゃあ・・・雨でも槍でも核爆弾でも降りますよっ!!」
「おい・・・酷い言われようだね、私」

加奈の怒涛のまくし立てはさらに続く

「いえいえ、見た目なんて美人で申し分ないんですけど・・・もう、まさかーって感じです」
「驚かれるとは思ってたけどそこまでとはねぇ・・・」

まだ出会ってそんなに経ってない加奈にここまで言われた美紗子はちょっと前までの自分がそこまで酷かったのか・・・と少し凹む。
依然として馬宮は漫画リアクションのままだ。
そんな中、加奈が立ち上がり、

「美紗子さん・・・ちょっと私ドラッグストアにいってきますー」
「何でよ」
「ちょっとヒ素あたりを・・・」
「買ってどうする気だ、おい。」
「いやぁ、以前の美紗子さんがもう一回見たいなーと。」
「飲んで戻るか!」

あぁやっぱりですかーと笑いながら着席する加奈。
やっと我に返った馬宮が不思議そうに尋ねる。

「それはえぇんやけど、何でワシ等なんや?実際彼の事での相談なんて乗ってへんし。」
「いやー、それはそうなんだけどさ。少しでも私を変えてくれた訳だし、ゲーム中とはいえお世話になったあんた達だしさー」
「ゲームとか言っちゃダメ!美紗子さんっ!」

美紗子はおっと失言と悪びれずに謝罪し、恥ずかしそうにうつむき

「まぁ何・・・?あんた達に会えたから今の自分になれたんだし、ありがとう。感謝してる。これが言いたかっただけ・・・」

美紗子の一言に一同して気恥ずかしさを紛らわすように視線を逸らす。
そのままの空気も心地良かったのだが、何も話さないのはもっともったいないと言わんばかりに加奈が質問する。

「告白したのは彼氏さんですかっ?!美紗子さんですかっ?!」
「いくらなんでも私な訳ないじゃない。」

美紗子は照れながら答える。

「へーへー、じゃあじゃあ、告白の時の言葉はっ?!」
「んー、どうだったかなぁ・・・愛してるとか好きだとか・・・そんな月並みな言葉だったと思う。もっと気の利いたのは言えなかったのかしらね?」
「でもでも、そんなの憧れますぅ。いいですねぇ。最近の親父なんて何処で憶えたのか、キモい寒い文句ばっかり垂れて・・・チッ!」
「加奈ちゃん・・・黒い・・・」
「えー?何の事ですかー?」
「ははっ!まぁワシもぐだぐだ御託並べて自己満足してる様なガキよりええと思うぞ。」

3人のテンションが上がって盛り上がり話す様は周囲にとって恐怖の的だったが、3人はそんな空気を気にせずにさらに盛り上がる。

「それでっ!それでっ!お相手の御名前はーっ?」
「えっとねぇ、仁志(ひとし)ってんだ。コレ最近思い出したんだけど、私いつも携帯番号登録する時さ、登録した順に番号つけて名前にして登録してたんだけど、こいつだけさぁ、仁志だから24にしてたんだよねー。」

馬宮がほほぅと感心した風に、

「中々粋やなぁ。仁志やから2・4で24かぁ。」
「あははー。美紗子さんの彼氏になれる様なスゴイ人なんだからさしづめスーパー仁志君ですねー。」
「ちょっとー、私そんなに大した女じゃないわよー。どっちかって言うなら下らない女。それに何よその名前ー。どこぞのふしぎ発見じゃないんだから。」

美紗子は普段なら何とも思わない陳腐な褒め言葉でも、今喜びを感じれている事に気づいて、これが幸せなんだなーと感じていた。

「でもですねぇ」

と、突然納得いかないと言う風に加奈が切り出す。

「仁志なら14じゃないですかぁ?」


ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!


「嬢ちゃん・・24や・・・」
「えっ?!でも1はひとつふたつのひと・・・」

ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!ズビシャー!!!!

加奈が少し怯えた風に、

「あぅ・・・何だか雷だすごくなってきてます・・・」
「加奈・・・」

美紗子が今までの何時よりも真面目な顔で、

「24よ・・・わかった?」

何て言うもんだから、加奈は

「・・・・・はい。」

と答える他なかった。
緊張した空気を早く取り払おうと加奈が別の話題を切り出す。

「そそ、そういえば告白されたのってイキナリだったんですかぁ?それとも前から会ってたとか。」
「それがねー・・・よく憶えてないんだ。」

気まずそうに笑う美紗子に馬宮は

「お前、その歳で健忘症はないやろー。本当の事言うてみぃ。」

と、攻めるならココだっ!と言わんばかりにからかい口調で尋ねる。

「んー、ただメールとかはきてたんだー。今度会いましょう、とか。本当にあなたの事が好きです、とか。」
「わぁ、愛。ですねー!」

結構少女趣味なのか、加奈が目をキラキラさせて美紗子を見つめる。
その眼差しが眩し過ぎて、恥ずかしくなって目を逸らす美紗子。
そんな中、馬宮がふと不可思議そうに、

「それにしてもやなぁ、ここ大阪やんな?」

と当たり前の事を尋ねる。

「当たり前じゃん」
「そうですよー」

と、続ける二人に馬宮は

「俺の周りも、行く先々の店員も、話聞く限り仁志ってのもそうやし、何で大阪弁しゃべってるのワシだけなんや?」


ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!


「気のせいじゃない?」
「そうですねー」

と、返してきた2人に一度は「そうかー。」と返すも納得がいかず

「じゃあ何で二人は標準語なんや?」


ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!ズビシャー!!!!


「うふふ・・・乙女には人には言えない秘密があるんですよぉー?」
「そうね」

と、言ってくる女二人はすごい威圧感を放っている。
その道の世界で生きてきてこれほどの物は感じたことがないであろうと感じた威圧感。
その威圧感に戸惑いながらも馬宮は、ヤクザの意地と言わんばかりに続ける。

「それにしてもここまで標準語だらけなんもおかしくあらへんか?大阪でやで?やっぱりワシだけ・・・・」


ピシャーン!!ゴロゴロゴロ!!!ズビシャー!!!!ドゴーン!!!!


「うふふ・・・気づいてしまったようね・・・」
「うふふ・・・もうしょうがないですねぇー?」

こんな麗しく華奢な女二人相手に馬宮は、
”あ、やばい。殺(と)られる。”
と、本能で感じ取り、自覚し、更にこの異常な事態に混乱しながら後ずさる。

「なななな、何や?お前等どうした?」

自分はヤクザ。そして相手は一般人。でも明らかに怯えているのは自分。
周囲をよく見ると今まで怯えて視線さえこちらに向けなかった店員や他の客まで壁際のこちらに来ている。

「世の中には知らなくていい事と知ってはいけない事があるんですよぉ?」

加奈の言った言葉で全てを悟る馬宮だが、相手は一般人。すごめば怯えて引く−−−

「お前等、ワシは見ての通りのヤクザやぞ?堅気には手ぇださんって言いたいけどそっちがその気やったら・・・!!」
「どうなるのかしら?」

−−−事はなかった。

美紗子はさらに一言。
「やりなさい。」
襲い掛かる一般人だったハズの人たち。
馬宮が最後に放った言葉は

「アッーーーーー!!!」

だった。


朝、馬宮が起きると事務所のソファーの上だった。
「何でこんな所で寝てるんや・・・・?」
確か昨日は・・・何があったんや?何てアホくさい思考を巡らせる自分に酒飲みすぎて忘れたんやろ。と決着をつける。
何か大事な事を忘れている気がしないでもないが、大事な事ならすぐに思いだせるだろうと決め込み、今日も一日の仕事へと気持ち引き締めた。

馬宮がこの仕組まれた世界で大阪弁を話す唯一無二の存在として生きるのはまた別のお話である。





おしまい。

(C)ふぁ〜B

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